ある日、突然夫が倒れて入院しました。腸捻転を起こしていて、手術は成功したものの、一時は呼吸も止まり、あらゆる臓器の機能が低下している危険な状況…。「乗り切れない可能性を覚悟してください」という医師の宣告を、私も、息子家族も受け止めきれませんでした。
「生きて…」重なる思い
息子たちは気落ちしている私に、思いやりのある言葉を掛けてくれました。温かい励ましに、諦めてはいけないと、どれほど心が強くなれたか知れません。いつも私たちを支え、家族から愛されている夫の姿が思い出され、感謝が湧き上がりました。「お父さんの頑張りがあって今の我が家がある。その感謝を届けよう」と、子や孫に伝えました。
面会ができた数分間。意識のない夫の耳元で、「お父さん、ありがとう。私のことは、子供たちが支えてくれているから安心してね」と語り掛けました。息子夫婦も、孫も、「家のことは心配ないから。頑張って」「おじいちゃん、元気になってね」と、それぞれの思いを届けました。
面会後、「これからも家族で支え合っていこうね。いつもありがとう」と息子夫婦に感謝して、病院を後にしたのです。
動かないはずの体が動く奇跡
不安な思いを神に語り、ICUで横たわる夫に、家族にとってどれだけ大切な存在か、語り掛ける毎日…。命の山場と言われた日を過ぎ、意識のなかった夫がようやく目を開けたのです。「お父さん、分かる?」と声を掛けると顔をわずかに傾け、手を握ると握り返してくれました。私の言葉に「分かっているよ」と答えてくれているようで、うれしさのあまり、すぐには信じられない思いでした。
意識はなくても、家族の切なる思いが確かに届く。見えない心の重なりに、生死の瀬戸際にいた夫の、生きる力が引き出されたことを実感しました。
さする手から伝わる思い
数カ月たった今では、会いに行くと笑顔で手を振って迎えてくれます。話すことはできませんが、「よく来てくれた。ありがとう」と言わんばかりに、足をさすってくれるのです。「お父さん、足の弱い私を心配してくれているんでしょう」と聞くと、大きくうなずきます。
ほぼ止まっていた臓器も、動きだしたようです。顔色も良くなり、車いすで軽く散歩をしたり、短い時間テレビを見たりできます。命の峠という宣告から、ここまで回復するという、驚くべき奇跡を頂きました。いつも教えを学び、家族の心が本当に一つになって、お互いを支え合ってきたからこそと思います。
病院から家に帰ると、お嫁さんが疲れた私を気遣ってくれます。優しさに触れ、涙があふれてきます。互いを思い合う、温かい家族に囲まれ、心からの感謝でいっぱいです。