第17回 明日が見えないときの信仰の力

先行きが見えない国際関係

今、私たちが、明日への見通しができなくなっているのが、国際関係です。国家間の衝突と、それによって平和ムードの後退が世界規模で生じたからです。今年2月になされた、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が、その具体的なきっかけです。ウクライナを支援するEU加盟国や、英、米両国とロシアとの対立が深刻化する中で、戦闘は、和平交渉による終結どころか、ロシアによる戦術的な小規模核兵器の使用さえ取り沙汰されるまでにエスカレートしてしまいました。小規模であれ、核兵器の使用は、世界的規模の戦争の扉を開きかねません。今後、果たしてどのように展開するのか、その見通しはとても難しくなりました。ちまたでは、第三次世界大戦が開始された、という旨の本さえ、既に出版されてもいるのです。

また、習近平国家主席を3期目の総書記に決定した中国と、アメリカの関係も、台湾やIT問題を絡めた対立が続き、そこにウクライナの戦闘も影響して、予測の困難な課題となっています。

 

国内の課題と見通し

明日への見通しが難しいのは、国際関係だけではありません。先進国においては、国内の二つの事柄が指摘されています。

その一つが、民主主義の具体的な改善策です。民主主義は、選挙によって国民の意思を政治に反映させることを、本来の目的や機能としています。しかし、この基本的な部分が実現されなくなっているため、制度の欠陥を是正することが急務です。とはいえ、その対策に動き出せた国は現在のところ見当たりません。見通しを立てるのが困難な状況です。

もう一つは、経済の根幹である資本主義制度が、機能不全に陥っているという実状です。資本主義の目的は、市場取引による資源の自由な流通です。しかしながら先進国では、昨今、この基本的な機能が十分に稼働しなかったり、阻害されたりして、自由に流通できない現象が発生しています。この問題についても、解決策を見つけ出せず、明日の見通しが立たないでいます。

 

困難の日常性と克服

見通しが立たないというのは、今まで述べてきた国際関係や政治、経済に限ったことではありません。私たちの生活においては、見通しの得られないことが実は頻繁に起きています。日々の生活は、困難とともに営まれているともいえます。

歴史をひもといてみると、生活の中で無数の困難に遭遇し、克服してきた人々の姿や実績が浮かび上がってきます。

例を挙げるならば、ペストとの闘いです。この伝染病は、14世紀中期にヨーロッパで蔓延(まんえん)し、人口の3分の1の命を奪ったといわれています。当時のヨーロッパ各国の人々の気持ちや行動を考えると、どれほどの厳しい状況であったかが想像できます。自分や家族が感染するかどうか予測できず、あるのは不安だけ…。「恐怖」のひと言に尽きる事態だったはずです。しかし、人々はそのような絶望的な状況から乗り越えて、今があります。

伝染病以外にも、自然災害や飢饉(ききん)、そして戦争など、困難はさまざまあります。そのたびに、人類は困難に立ち向かい、克服してきたことを歴史が教えてくれています。

 

伝統と信仰の力を支えに

私たちの先祖は、これまで数知れない困難に直面してきました。自然災害や戦争であっても、直面した人々が経験した恐怖と苦しみは、ペストと何ら変わらなかったはずです。それでも人々は、目の前の困難に向き合い、克服してきたのです。これは歴史上の確かな事実であり、人間の強さを証明してくれています。

私たちは、人間を強い生き物ではないと考えがちですが、それは逆であることを、こうした事実が示しています。人間は、必要なときに大きな力を発揮して、事を成す能力を備えているのです。それでは、いったい、そうした力はどこから湧き出るのでしょうか。まず挙げられるのが、社会にある伝統でしょう。ここでいう伝統とは、「暮らし方」です。崩れてしまった日常を、少しずつ取り戻していく、整えていく上で、日々の「暮らし方」という伝統が、明確な指針、目標となって、困難からの立て直しを実現していきます。

加えて、究極的には、神への信仰です。信仰は、まさに私たち人間を根源で支え、導く、尊い精神です。絶望の淵に追い込まれた時に、前を向く力となるのは、唯一「希望」であると、当教会の信者なら誰もが知るところです。その希望を与えてくださるのが神であり、神に守られているという絶対的な安心感です。

伝統と信仰。この二つによって、私たち人間は大きな力を得られるのだと、しっかりと認識しておくことが大切です。

略歴
東京大学法学部卒業。同大学大学院修了。
平成15年から平成18年まで日本大学法学部法学部長、平成18年から平成19年まで同大学副総長を務める。著書『刑法総論』『刑法各論』ほか。

 

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