世界中が心を一つにして乗り越えるべき試練
(山本記顯さん/70代男性/呼吸器外科医師)

2019年12月、中国の武漢市で新型感染症患者が増加中と報道されたのが、そもそもの発端でした。その後、数カ月の間に、世界中でクラスターが発生。今は完全なパンデミックとなっています。一個人の判断や、一国家の政策で御し得ないのが、細菌やウイルスの猛威です。

冷静に判断して、行動することが必要

現在、医療現場は、いろいろな意味で崩壊の危機にあります。あふれ返るコロナ報道のために、多くの市民は不安を感じ、行動半径を縮め、逼塞しています。流行国では病院内での感染が多いといわれており、多くの市民が受診をためらっているのも当然かもしれません。生活習慣病で通院している方や、がんの治療中の方なども要注意です。治療を中断してでも病院に行くことを避ける人が増えつつあり、事態が収束した後に、病状が悪化した患者が増えるのではないかと懸念されます。

足元をいま一度見詰め直すことが、現代人には必要なのかもしれません。そして、新型コロナウイルスをいたずらに恐れるのではなく、国を超えて協力し合う体制が、今後必要と考えます。このコロナ流行の中で、自身が感染に至らないこと、感染に至っても重症化しないこと、重症化しても死に至らないように、状況を冷静に判断して行動を取ることが必要です。

「協力して乗り越えよう」と背中を押す

医師としての診療スタンスは、昔も今も変わりなく続けています。患者本人の最大の苦痛が何であるかを確認することが最初の作業です。しかし、新型コロナ感染症の増大とともに、内面的な苦悩を訴えるケースが増えつつあり、身体の症状を上回る勢いです。いわく「眠れない」「職場の雰囲気が悪い」「一年間の労務契約が三カ月に減らされた」等々。共感しながらも、「コロナ騒ぎは現代人が乗り越えるべき試練であり、世界中が協力して封じ込めるより他はない」ことを強調しています。「感染症の流行は、誰のせいでもなく、必ず終わりが来ます。早く元に戻るよう、協力して乗り越えましょう」と、力強く患者さんの背中を押しています。

コロナ感染者の増加とともに、発熱患者の診察には、慎重にならざるを得ません。駐車場まで出向き、感染回避のために車内で待機されている方を、ドアを開けて外から診察することもあります。コロナ感染が疑われるケースは保健所と連携してPCR検査を行っていますが、もし、陽性と判明した暁には、多大な労苦と損失が発生することが目に見えています。それでも、日々目前の仕事を心穏やかに、淡々とこなしていけるのは、神の限りないご守護であると感じる毎日です。拡大が止まり、一日も早く穏やかな日々が戻ることを切望してやみません。